非大卒のフリーランス独立、実務で食べていける人の条件
- 内閣官房の2020年調査では本業フリーランスが214万人、副業含め462万人と推計され、学歴欄自体が存在しない働き方が広がっている。
- 独立1年目は収入が前年より下がったと答える人が体感値で6〜7割程度で、生活防衛資金は生活費6ヶ月分を目安に在職中から積み立てておくのが現実的。
- 2023年10月開始のインボイス制度に未登録だと取引先が仕入税額控除を使えず、契約見直しの材料にされることがある。
「独立して食べていけるんですか?」と、僕は最近この質問を本当によく受けます。
結論から言うと、非大卒であることは独立・フリーランスという働き方においてほとんど障害になりません。学歴フィルターが働きやすい新卒採用や大手企業の中途採用に比べると、実務経験と実績の見せ方さえ整っていれば、むしろフェアに勝負できる領域だと僕は感じています。とはいえ「独立して食べていける人」と「1〜2年で会社員に戻る人」の差は、確かに存在します。今日はその分かれ目と、独立前にやっておくべき準備、そして実際によくある失敗とその対処法まで、実務クエストらしく具体的に整理していきます。
0. 非大卒とフリーランス、実際どれくらい重なっているのか
内閣官房日本経済再生総合事務局が2020年に公表した「フリーランス実態調査」では、本業としてフリーランスで働く人が約214万人、副業も含めると約462万人と推計されています(本業・副業の区分は同調査の定義に基づく人数で、業種や学歴の内訳までは公表されていません)。この調査が学歴別のデータをそもそも取っていないという事実、僕にとってはこれ自体がひとつのヒントです。フリーランスという働き方の入口には、そもそも学歴欄が存在しないケースが多い。発注する側が見ているのは「この人に頼んだら期日までに一定の品質で仕上がるか」であって、卒業した学校ではありません。参考までに、国税庁「民間給与実態統計調査」(令和4年分)による給与所得者の平均給与は458万円ですが、フリーランス協会が公表する「フリーランス白書2023」では、年収200万円未満の層と800万円以上の層がともに一定数存在し、給与所得者よりも分布の幅が大きいと報告されています。つまりフリーランスは「平均」で語れる働き方ではなく、上下のばらつきそのものが前提の世界だと僕は捉えています。僕が独立志向の方と面談する中でも、高卒・専門卒の方は珍しくなく、むしろ現場で手を動かしてきた分だけ、成果物への向き合い方が地に足のついている印象を受けることもあります。
1. 独立して「食べていける人」と「戻ってくる人」の分かれ目
この差は、僕の体感値では大きく3つの軸に分解できます。学歴の有無で決まる要素は、ここにはひとつも出てきません。
1-1. スキルの持ち出し方
会社員時代に培った実務スキルを、会社の看板なしで再現できるかどうかです。以前、携帯ショップで5年間販売職を務めた30代の女性(複数の相談内容をもとに構成した仮名・Sさん)と面談したことがあります。店舗では月間トップクラスの成績を出していたものの、独立して個人向け営業コンサルタントとして活動を始めた当初は、「〇〇ショップの実績」という看板が使えなくなった途端に契約が取れず苦戦していました。転機になったのは、その成績を「来店客への提案トーク別の成約率」まで分解し、数字で語れるように棚卸しした後です。会社の看板ではなく、自分の行動と結果の数字で信頼を作れるようになってから、契約が安定し始めたと話していました。
1-2. 顧客との関係の作り方
独立直後の最初の顧客は、ゼロから新規開拓するより「前職の取引先」か「元同僚・元上司からの紹介」で始まるケースが、僕の見てきた中では現実的に多いです。在職中から関係を切らずに独立の意思を少しずつ伝えておけるかどうかで、独立後最初の半年の動きやすさがかなり変わってきます。逆に、退職の直前まで独立の意思を隠し通し、円満退職とは言えない形で辞めた方は、前職の人脈をその後の顧客開拓に使えず苦労する傾向があると感じています。
1-3. お金の管理力
経費管理・税務申告・インボイス対応といった「事務のスキル」も、実務スキルと同じくらい独立の成否を左右します。以前相談を受けた40代男性(複数の相談内容をもとに構成した仮名・Kさん)は、専門卒で建築設備の施工管理として10年以上実務経験を積んでおり、技術面での不安はほとんどありませんでした。ところが独立後、確定申告の準備を後回しにし続けた結果、繁忙期に本業の稼働時間を削って帳簿付けに追われることになり、案件を1件断らざるを得ない事態に陥りました。技術力があっても、事務のスキルが伴わないと稼働時間そのものを削られてしまう、という典型例だと感じています。会社員時代に経理や事務作業を軽視していた人ほど、この壁にぶつかりやすい印象があります。
僕がこれまで見てきた中で、独立1年以内に会社員へ戻った方の相談を振り返ると、実は技術面よりもこの「お金の管理力」でつまずいたケースが目立ちます。Sさんのようにスキルの言語化がうまくいっても、事務作業を後回しにした結果、収入があっても手元のキャッシュフローが読めず不安になり、安定した会社員に戻る決断をした方も僕の相談経験の中にはいました。
2. 独立前にやるべき、今日からの5つの準備
独立を決めてから動くのではなく、会社員のうちに済ませておける準備が実はたくさんあります。目安の期間もあわせて整理します。
- 生活防衛資金を作る:目安は生活費の6ヶ月分。毎月3〜5万円を1〜2年かけて積み立てるイメージで、在職中に済ませておくのが現実的です。
- 実績を数字で棚卸しする:会社名に頼らず語れる成果を、期間・件数・成果の形で言語化します。週末に3〜4時間ほどの棚卸し作業を2〜3回繰り返すと、一通り形になる印象です。
- 最初の顧客候補に声をかけておく:独立を正式に表明する前の段階から、信頼関係のある取引先や元同僚に方向性だけでも共有しておきます。目安は退職の3〜6ヶ月前です。
- 開業届とインボイス登録の要否を確認する:取引先が課税事業者かどうかで、登録の有無が価格交渉の材料になることがあります。届出自体は税務署へ即日提出できますが、判断には1〜2週間かけて主要取引先に確認するくらいの慎重さがあってよいと思います。
- 単価表と見積もりの型を作る:相場観がないまま最初の見積もりを出してしまうと、後から値上げしづらくなります。半日〜1日で叩き台を作り、案件を重ねながら見直していく形で十分です。
3. 独立後によくある失敗と、その対処法
僕が相談の中でよく聞く失敗のパターンは、だいたい次の4つに集約されます。
一つ目は単価を安く設定しすぎる失敗です。会社員時代の月給を時給換算した水準をそのまま単価にしてしまい、経費や税負担、そして稼働できない期間があることを考慮していないケースが目立ちます。対処法としては、同業のフリーランスの相場を数件リサーチし、そこに経費と非稼働期間の分を上乗せして単価を逆算することです。
二つ目は契約書なしで仕事を受けてしまう失敗です。口約束のまま案件を進め、納品後に「思っていたものと違う」という理由で報酬を減額されたという相談を受けたこともあります。簡易な業務委託契約書のテンプレートを用意し、金額・納期・修正回数の上限だけでも書面に残しておく習慣が有効です。
三つ目はインボイス制度への未対応です。2023年10月に開始されたこの制度により、免税事業者のままだと取引先が仕入税額控除を使えなくなり、それを理由に価格交渉や契約見直しの材料にされることがあります。すべての人が登録すべきというわけではありませんが、主要な取引先が課税事業者かどうかは、独立前に必ず確認しておくべき事項です。
四つ目は確定申告・帳簿付けを後回しにする失敗です。先ほどのKさんの例のように、日々の帳簿付けを溜め込むと、繁忙期にまとめて処理する羽目になり、本業の稼働時間を圧迫します。対処法としては、独立前の段階から会計ソフトに触れておき、月1回15〜30分程度で入力を済ませる習慣を独立初月から作っておくことです。会社員のうちに副業で少額でも収入を得て、確定申告を一度経験しておくのも有効だと感じています。
4. 独立後3年間、収入と働き方はどう変わるか
僕の体感値になりますが、独立相談を受けた方のその後を継続的に聞く中で見えてきた大まかな傾向を、会社員時代と比較する形で整理してみます。
| 時期 | 収入の体感傾向 | 学歴の影響 |
|---|---|---|
| 会社員時代 | 安定(昇給ペースは緩やか) | 昇進・配属で影響が残る場合がある |
| 独立1年目 | 前年より下がったと答える人が体感値で6〜7割程度 | ほぼ影響なし |
| 独立3年目 | 会社員時代の水準を上回ったと答える人が体感値で半数程度 | 影響なし |
この表の数字はあくまで僕が面談を通じて聞き取ってきた体感値であり、公的な追跡調査の数字ではありません。ただ、独立1年目に収入が落ち込むこと自体は珍しくないという前提を持っておくだけで、焦って会社員に戻る決断をしなくて済むケースが多いと感じています。逆にこの前提を知らないまま独立すると、1年目の落ち込みを「向いていない証拠」と早合点し、せっかく育て始めた顧客との関係を手放してしまう人もいます。Sさんのように1年目を耐えて棚卸しと関係構築を続けた方が3年目に会社員時代の水準を超えていく一方、Kさんのように事務面でつまずいた方は同じ1年目でも心理的な余裕を失いやすい、という違いが両者の分かれ目になっていたと僕は見ています。
5. 独立以外の選択肢―業務委託・副業という中間ステップ
ここまで「独立するかどうか」を軸に話してきましたが、実際にはフルタイムの独立と会社員の間に、業務委託契約や副業という中間的な働き方があります。総務省統計局「就業構造基本調査」(令和4年)によれば、副業を持つ有業者は本業のある人のうち一定割合存在し、働き方の選択肢として副業自体は珍しいものではなくなってきています(同調査は業種別・雇用形態別の内訳を示しており、学歴別の副業率までは公表されていません)。僕が相談を受ける中でも、いきなり会社を辞めて独立するのではなく、まずは休日や勤務後の時間を使って業務委託の案件を1〜2件受け、月に数万円でもクライアントワークで報酬をもらう経験を半年〜1年ほど積んでから退職に踏み切る方が、独立後の失速を避けやすいという印象を持っています。特に非大卒の方の場合、会社の看板を外した状態での評価のされ方に不安を感じるケースが多いため、この中間ステップを踏むことで「看板なしでも通用する」という手応えを事前に確認できるメリットは大きいと感じています。
6.(結論)
非大卒であることは、独立・フリーランスという働き方において障壁にはなりません。学歴欄そのものが存在しない世界だからです。差がつくのは、会社の看板なしでスキルを言語化できるか、顧客との関係を在職中から丁寧に作れているか、そしてお金の管理を軽視せずに向き合えるか、この3点です。皆さんいかがでしたでしょうか。独立は勢いだけで飛び込む選択ではありませんが、準備さえ整えれば、非大卒であることを理由に足踏みする必要はまったくありません。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. フリーランスに転身するとき、学歴は評価されますか?
結論、ほとんど評価対象になりません。内閣官房の2020年調査でも学歴別データ自体が公表されておらず、発注側が見ているのは実務の再現性です。高卒・専門卒でも独立して活動している方は珍しくなく、会社の看板を外した状態で実績を数字で語れるかどうかが評価を左右します。
Q. 独立前にどれくらい貯金しておけば安心ですか?
目安として生活費の6ヶ月分が一つの基準です。僕が独立相談を受ける際にまず確認する水準で、独立1年目は前年より収入が下がったと答える人が体感値で6〜7割程度いるため、この期間を乗り切る余力として設定しています。毎月3〜5万円を1〜2年かけて積み立てるなど、在職中から逆算して準備を進める方が現実的です。
Q. インボイス制度に登録しないとどうなりますか?
免税事業者のままだと取引先が仕入税額控除を使えなくなり、それを理由に価格交渉や契約見直しの材料にされることがあります。2023年10月に開始された制度で、すべての人が登録すべきとは限りませんが、主要取引先が課税事業者かどうかは独立前に確認しておくべき事項です。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。