職域マップ2026-07-08監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

大卒との年収差、実際どれくらいで、どう埋まっていくのか

「大卒の同期と、もう年収で100万円くらい差がついている気がします」

こうした声を、僕は面談で何度も聞いてきました。皆さまも、同世代の大卒者と自分の年収を比べて、モヤモヤした経験があるかもしれません。この記事では、感覚論ではなく、統計と現場の実感の両方から、この差の実態と、埋まっていく経路を整理します。

0. 前提 — 統計上の「差」は、入社時点の話であることが多い

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」など公的統計は、学歴別の平均賃金を示しています。ここに一定の差があること自体は事実です。ただし誤解がないように申し上げると、この差の多くは、初任給や若年層の平均値として現れやすく、キャリアを重ねる中で差が縮小・逆転する人も一定数存在します。統計はあくまで平均値であり、個人のキャリアの伸び方を決定づけるものではありません。

1. 年収差が生まれる3つの局面

年収差が生まれる局面を分解すると、大きく3つに分けられます。①初任給・若年層での基本給テーブルの違い、②昇格スピードの違い(一部企業で学歴が昇格要件に組み込まれているケース)、③転職市場での初期オファーの違い。この3つは、それぞれ発生するタイミングも、対策の方向性も異なります。

1-1. 初任給の差は「制度」の話

初任給の差は、多くの場合、企業の給与テーブルという制度に起因します。個人の実力とは別次元の話であり、ここで悲観する必要はありません。制度上の差は、転職や実務経験の蓄積によって、後から十分に埋められる性質のものだからです。

2. 差が縮まる典型的な経路①:専門性による転職

僕が見てきた中で、最も再現性が高いのが、専門性を武器にした転職による年収の押し上げです。同じ会社に居続けるより、実務経験を武器に転職市場で評価を更新するほうが、年収の伸び幅は大きくなりやすい傾向があります。特に人手不足の強い業種・職種では、実務経験者への提示額が学歴差を上回るケースは珍しくありません。

3. 差が縮まる典型的な経路②:資格・技能による手当の積み上げ

資格手当・技能手当・役職手当を積み上げていくことで、基本給の差を実質的に埋めていく経路もあります。単発では小さくても、複数の手当が積み重なると、月数万円単位の差になることも珍しくありません。前の記事で扱った「資格の実務接続度」の考え方が、ここで生きてきます。

3-1. 手当の「積み上げ方」にもコツがある

ここが今回の隠れた主役です。手当は闇雲に増やすのではなく、自分の実務の中心にある技能に近いものから優先して取得すると、評価との連動が強くなります。周辺的な資格をたくさん持つより、中心的な技能を裏づける資格を1〜2個持つほうが、交渉材料としての強さは上です。

4. 差が縮まる典型的な経路③:マネジメントへの越境

現場の実務者から、管理・マネジメント職へ越境することも、年収差を埋める大きな経路の一つです。学歴不問でマネジメント職に登用する企業は、実務接続型の採用が広がる業界を中心に増えています。ただし、マネジメントへの適性は人によって違うため、これは全員に勧められる経路ではありません。詳しくは関連記事「非大卒管理職への道」で扱っています。

経路効きやすい人時間軸の目安
専門性による転職特定領域で成果を出せている人数年単位
資格・技能の積み上げ今の会社に長く関わりたい人継続的
マネジメントへの越境対人志向・調整力のある人専門性確立後

この表は独自の目安であり、実際の年収は企業・個人により大きく異なります。

5. 実務パート — 自分の年収の「伸びしろ」を20分で棚卸しする

今日できる棚卸しを紹介します。①直近3年の年収の推移を書き出す。②その推移が、①転職、②手当の積み上げ、③昇格のどれによるものかを分類する。③まだ使っていない経路(例えば転職を一度もしていない、資格を取っていない等)を確認する。使っていない経路こそ、次の一手の候補です。

4-2. 「差が縮まらない」パターンにも共通点がある

逆に、年収差がなかなか縮まらない人にも共通したパターンがあります。多いのは、同じ会社・同じ役割に長期間とどまり続け、資格取得も転職もせず、年功的な昇給だけに依存してしまうケースです。年功的な仕組みが残っている企業では、これでも一定の昇給は見込めますが、大卒者との差を積極的に縮める動きとしては弱いというのが実態です。

もう一つのパターンは、転職はするものの、年収交渉の材料を用意しないまま面接に臨み、結果的に前職と同水準か、それ以下のオファーで妥協してしまうケースです。転職は年収を上げるための手段であって、それ自体が目的化すると効果が薄れます。職務経歴書と面接での実務の見せ方が、前の記事で扱った内容と直結してくる部分です。

4-2-1. 年収交渉で使える「相場観」の作り方

年収交渉の材料として有効なのが、同業種・同職種の求人票を複数集めて、提示年収のレンジを自分で把握しておくことです。これは公的統計ではなく、あくまで個人でできる相場観の目安づくりですが、複数のオファーを比較する土台として十分に機能します。転職エージェントに相場感を確認することも、この作業を補完する有効な手段です。

5-2. 「地域差」も年収差の一因になる

年収差を語る上で見落とされがちなのが地域差です。都市部と地方では、同じ職種・同じ実務レベルでも、提示される年収水準に差があります。この差は学歴差とは別の軸として存在しており、転職先の地域選びも、年収を考える上での重要な変数の一つです。

6. まとめにかえて — 差は「固定値」でなく「経路の選び方」で変わる

大卒との年収差は、確かに統計上存在します。しかし、それは初期条件の一つであって、キャリア全体の結果を決めるものではありません。差を埋める経路は複数あり、自分に合った経路を選べるかどうかが本質です。診断で自分の実務タイプを確認し、自分にとって現実的な経路から動き出してみてください。

5-3. 年収差を「焦って埋めようとしない」ことの重要性

ここまで年収差を埋める経路を紹介してきましたが、最後に一つ、逆説的なことをお伝えします。年収差を焦って埋めようとするあまり、実務の質を伴わない転職を繰り返してしまうと、かえってキャリアが不安定になり、長期的な年収の伸びを損なうことがあります。短期の年収アップより、中長期での市場価値の積み上げを優先するという視点を持つことが、結果的に一番大きな差を生みます。

僕が面談で伝えているのは、「今の年収差」ではなく「5年後の伸び率」で自分のキャリアを評価してほしいということです。目先の数字に一喜一憂せず、実務接続度・資格・マネジメント経験といった資産を着実に積み上げていく姿勢が、結果的に年収差を最も確実に縮めていきます。

6. おわりに — 年収差は「今の姿」であって「未来の姿」ではない

統計上の年収差は、あくまである時点でのスナップショットです。皆さまがこれからどんな実務ブロックを積み上げ、どんな資格を取り、どんな役割に越境していくかによって、この差は大きく動いていきます。焦らず、しかし着実に、自分の実務座標を育てていってください。

6-2. 年収差の議論を「同僚との比較」から「自分の過去」に切り替える

最後に一つ、視点の転換を提案します。大卒の同僚と比較して落ち込むより、1年前の自分と今の自分の年収・実務レベルを比較する習慣を持つほうが、健全にモチベーションを維持できます。他人との比較は際限がありませんが、自分自身の伸び率は、行動次第で確実にコントロールできる変数です。

6-3. 中小企業ならではの「交渉の余地」も知っておく

大企業の給与テーブルが硬直的である一方、中小企業では経営者との直接交渉によって、テーブル外の条件を引き出せる余地が相対的に大きいことがあります。これは中小企業で働くことの一つの利点として、あまり語られませんが実務上は重要な視点です。転職先を大企業か中小企業かで単純に序列づけるのではなく、給与制度の柔軟性という観点からも比較検討してみると、年収差を埋める新しい選択肢が見えてくることがあります。

6-4. 家族構成やライフステージによる「優先順位」の変化

年収差を埋めることだけがキャリアの目的ではありません。家族構成やライフステージの変化によって、年収以上に働き方の柔軟性や勤務地を優先したいタイミングも訪れます。年収差というテーマにとらわれすぎず、自分にとって今、何を優先すべきかを都度見直す視点も持ち合わせておいてください。

6-5. 「差を語る言葉」を変えると、行動も変わる

最後にもう一つ。「大卒との年収差」という言葉を使い続ける限り、意識はどうしても他人との比較に向きます。代わりに「自分の実務接続度をどこまで高められるか」という言葉に置き換えて考えてみてください。言葉が変わると、注目する対象が他人から自分の行動に移ります。行動に注目できれば、打てる手は必ず見つかります。焦らず、しかし止まらず、一歩ずつ積み上げていってください。皆さまのキャリアが、実務の積み上げによって着実に前進していくことを願っています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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年収の伸びしろがどこにあるか、自分の実務座標から考える。

年収差の構造を理解すれば、打ち手が見えてきます。診断と記事で、自分にとっての伸びしろを確認してください。

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